こんにちは。
10月1日にノーベル医学生理学賞の受賞者発表がありましたね。
今年のノーベル医学生理学賞は、本庶佑氏とJames Patrick Allison氏の共同受賞となりました。
日本の医学生理学賞受賞は、利根川進氏、山中伸弥氏、大村智氏、大隅良典氏に次いで5人目となります。
今回の授賞理由は「免疫抑制の阻害によるがん治療法の発見」。
ノーベル財団はそのツイッターで、
「今年のノーベル賞受賞者は、がん治療の全く新しい原則を確立した。(This year’s NobelPrize laureates have established an entirely new principle for cancer therapy.」」と述べています。
がんの治療には手術や放射線治療、従来の抗がん剤治療(薬物療法)の三大治療があるわけですが、
ノーベル財団がツイッターで述べた「がん治療の全く新しい原則」こそ、「第4の治療法」といわれている「免疫療法」になります。
●そもそも免疫とは何でしょうか?
「免疫」は、自分(自己)と自分ではないもの(非自己)を見分け、病気の原因となる細菌やウイルスなどの病原体、体内で発生した異常細胞であるがん細胞など(非自己)から体を守る仕組みのことです。
免疫には「自然免疫」と「獲得免疫」があり、二つの仕組みで体を守っています。
自然免疫は、樹状細胞、好中球、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞などにより体内に侵入してきた外敵やがんになるような異常な細胞(非自己)がいないかパトロールを行い、異物を見つけたらいち早く攻撃し、異物の情報を次の段階の「獲得免疫」に伝える役割を担います。
獲得免疫は異物や異常細胞を見つけた場合に、B細胞、T細胞などの免疫を担当する細胞(リンパ球)が増えて、攻撃を始めます。
また、「自然免疫」から受け取った情報を記憶しておくことができ、同じ異物が再び侵入してきたり、同じ異常細胞が体のなかで発生したりしたときに、素早く攻撃することができるような仕組みになっています。
免疫ってすごいですよね。
●免疫療法とは?
免疫のはたらきを利用した治療法であり、
大まかに分けると、「免疫ががん細胞を攻撃するはたらきをパワーアップさせる方法」と、「がん細胞が免疫のはたらきを抑えている原因を取り除く方法」があります。
●今回の授賞理由「免疫抑制の阻害によるがん治療法の発見」とは?
がん細胞は、体内の正常な細胞の遺伝子が変化してできた異常な細胞で、体内でどんどん増えていこうとします。
免疫によって、がん細胞は異物とみなされ、体から取り除かれています。
ではなぜ、免疫があるにもかかわらず、がん細胞が増えてしまうのでしょうか?
近年の研究から、がんが免疫による攻撃にブレーキをかけていることがわかってきました。
免疫の司令塔となるリンパ球の一種「T細胞」の表面に、「PD-1」というタンパク質があります。
がん細胞の表面にはPD-1と結びつくたんぱく質「PD-L1」があり、二つが結合すると、攻撃を控えるよう求めるシグナルがT細胞内に伝わり、免疫にブレーキがかかります。
本庶氏はこの、免疫の働きにブレーキをかけるたんぱく質「PD-1」を発見し、このブレーキを取り除くことでがん細胞を攻撃する新しいタイプの「がん免疫療法」を実現しました。これが「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)の開発につながりました。
この他にも「ヤーボイ」(一般名イピリムマブ)、「キイトルーダ」(一般名ペムブロリズマブ)、「テセントリク」(一般名アテゾリズマブ)、「バベンチオ」(一般名アベルマブ)など続々と新薬が開発、承認されており、今後免疫チェックポイント阻害薬の各社の開発競争は激しくなりそうです。
がん治療の選択肢が増えるのは大変喜ばしいことですが、PD-1抗体をはじめとした免疫チェック阻害剤にも限界があり、すべての人が治るわけではありません。
免疫チェック阻害剤にどういったものを加えるとより効果が出るのかなどの研究が盛んに行われており、今後の研究結果が楽しみです。
院長 飯田 修史
足立外科胃腸内科医院(外科・胃腸内科・内科・皮膚科)【五反野、青井のクリニック】