このウイルスの感染経路はほとんどが経口感染で、「人からの感染」と「食品からの感染」があります。ノロウイルスは感染力が強く、10-100個の極微量のウイルスを摂取することで感染が成立するとされています。感染者の糞便には1gあたり数億個のウイルスが含まれるとされており、このことからも感染者の糞便の取り扱いには注意が必要です。
「人からの感染」としては
・患者のノロウイルスが大量に含まれる糞便や嘔吐物から人の手などを介して二次感染する場合
・家庭や施設内などでの飛沫などにより感染する場合
などがあります。
「食品からの感染」としては
・感染した人が調理をして汚染された食品を食べた場合
・ウイルスの蓄積した、加熱不十分な二枚貝などを食べた場合
・ノロウイルスに汚染された井戸水や簡易水道を消毒不十分で摂取した場合
などがあります。
主な症状は吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、微熱です。通常、これらの症状が1~2日間続いた後に治癒し、後遺症もありません。また、感染しても発症しない場合や、軽い風邪のような症状の場合もあります。
このように、健康な方は軽症で回復しますが、子どもやお年寄りなどでは重症化したり、吐いた物を誤って気道に詰まらせて死亡することがありますので、特にご注意ください
感染から症状出現までの時間(潜伏期間)は24~48時間です。ウイルスは症状が消失した後も約1週間(長い時には約1ヶ月)患者の便中に排泄されるため、二次感染に注意が必要です。
臨床症状や周囲の感染状況等から、総合的にノロウイルスを原因と推定して診療がなされることが多いですが、このウイルスによる病気かどうかは臨床症状からだけでは特定できません。
「ノロウイルス迅速診断キット」によって診断します。便の中に存在するノロウイルスを検査キットで検出するもので、3歳未満、65歳以上の方に健康保険が適用されています。感染性腸炎の治療が対症療法であるために治療方針が大きく変わることはあまりありません。あくまで、医学的に必要と認めた場合に診断の補助として用いられます。
より確実な検査方法は、ウイルス学的な診断です。患者の便や嘔吐物を用いて、電子顕微鏡法、RT-PCR法、リアルタイムPCR法などの遺伝子を検出する方法でウイルスの検出を行い、診断します。便には通常大量のウイルスが排泄されるので、比較的容易にウイルスを検出することができます。こうした方法による検査は、通常、医療機関で行うことはできず、食中毒や集団感染の原因究明などの目的で、行政機関や研究機関等で行われています。
現在、このウイルスに効果のある抗ウイルス剤は存在せず、治療の原則は対症療法となります。体力の弱い乳幼児、高齢者は下痢による脱水症状を起こしたり、体力を消耗したりしないように、水分と栄養の補給を充分に行いましょう。脱水症状がひどい場合には点滴を行います。嘔吐物による窒息に注意する必要もあります。
「下痢止め」は病気の回復を遅らせることがあるので原則、使用しません。
「手洗い」をしっかりと行うことが重要です。ノロウイルスは感染力が強く、感染者の嘔吐物、便だけでなく、ドアノブ、カーテン、リネン類、日用品などの生活環境の中からもウイルスが検出されます。手洗いは、 手指に付着しているノロウイルスを減らす最も有効な方法です。
特に食事前、トイレの後、下痢等の患者の汚物処理やオムツ交換等を行った後、調理前後は石けんでよく洗い、流水で十分に流しましょう。消毒用エタノールによる手指消毒は、石けんと流水を用いた手洗いの代用にはなりませんが、すぐに石けんによる手洗いが出来ないような場合、あくまで一般的な感染症対策の観点から手洗いの補助として用いてください。
ノロウイルスが流行する冬期(11月頃から2月)は、乳幼児や高齢者の間でノロウイルスによる急性胃腸炎が流行します。この時期の乳幼児や高齢者の下痢便や嘔吐物に大量のノロウイルスが含まれていることがありますので、おむつ等の取扱いには十分注意が必要です。
患者の嘔吐物や便を処理する際は、使い捨てのガウン(エプロン)、マスクと手袋を着用し、汚物中のウイルスが飛び散らないように、便、嘔吐物をペーパータオル等で静かに拭き取ります。使用したペーパータオルや汚染されたおむつ等はビニール袋に密閉して廃棄します。
拭き取った後は、次亜塩素酸ナトリウム※で浸すように床を拭き取り、その後水拭きをします。ノロウイルスは乾燥すると容易に空中に漂い、これが口に入って感染することがあるので、嘔吐物や便は乾燥しないうちに残らないよう速やかに処理し、処理した後はウイルスが屋外に出て行くよう空気の流れに注意しながら十分に喚気を行うことが感染防止に重要です。
※家庭用の次亜塩素酸ナトリウムを含む塩素系漂白剤でも代用できます。使用に当たっては「使用上の注意」を確認しましょう。
また、「食品からの感染」を防ぐことも重要です。一般にウイルスは熱に弱く、加熱処理はウイルスの活性を失わせる有効な手段です。ノロウイルスの汚染のおそれのある二枚貝などの食品の場合は、85℃~90℃で90秒以上の加熱し、食材の中心部までしっかり火が通るようにしましょう。
まな板、包丁、食器、ふきんなどは使用後すぐに洗い、85℃以上の熱湯で1分以上加熱するようにしましょう。
最寄りの保健所やかかりつけの医師にご相談下さい。また、保育園、学校や高齢者の施設等で発生した場合、早く診断を確定し、適切な対症療法を行うとともに、感染経路を調べ、感染の拡大を防ぐことが重要ですので、速やかに最寄りの保健所にご相談下さい。
ノロウイルスにかかった場合、どのくらい休む必要があり、どのようになったら登校可能かという法的な定めはありません。学校保健安全法および同施行規則によると感染性胃腸炎(嘔吐下痢症、ノロウイルス、ロタウイルスなど)は下痢・嘔吐症状が軽快するまで学校を休む必要があります。
職場復帰に関しては、職場内での感染を防ぐために「学校保健安全法」をひとつの基準として対応することが大切ですが、「何日休む必要があるか」、「休んだらその扱いはどうなるのか」に関しては職場の就業規則に準じて判断します。就業規則に取り決めがない場合は嘱託医や受診した医師の指示のもと、職場の管理者が独自に判断します。